とんでもない楽器をお迎えしたお話
時は2019年8月
暇つぶしにYouTubeを見ていた時、偶然見つけた瀬尾真紀子さんの動画を見て衝撃を受ける。
それはショパンが生きていた時代に作られたというピアノが修理を終え、それをその方が試弾する動画。それは朗らかでまるで人の声のような音、それが噂に聞いていた「プレイエル」の鮮烈すぎる音だった…
浜松市楽器博物館に展示されてるデュオピアノなど、ちょこちょこモノ自体は見たことはあるものの、音を聞いたのはその動画が初めて。でもあっさり一目ぼれして虜になってしまった。
これがその動画
冗談半分で懇意にしている調律師さんに「最近扱い始めたベヒシュタインもいいけど、古いプレイエル欲しいなぁ」 とぼやいた。当時1900年代のプレイエルが売約済みであはったがその調律師さんの工房に入ってはいたものの、1800年代の古い楽器はめったに入るわけでもなく…
それがまさか思いもよらない出会いを呼ぶとは知らずに…
3か月後…2019年11月
Twitterでツイートをしていると、突如その調律師さんからメンションが飛んできくる…
「1800年代の古いプレイエル、フランスを出ましてそろそろ日本に入ります」耳を疑うような話だった…とりあえず実際に日本に来たら一目見ようと思い、「それは気になります。」とリプライを返す。現物確認を前提として、その時点で仮押さえしていただくこととした。
2020年2月
15年ぶりに浜松市楽器博物館に行き、展示されているふるーい楽器を見ながらまだ見ぬピアノへの思いをはせる…
2020年3月
感染症騒ぎがじわじわと大きくなっていくさなかに工房にお邪魔した時、「こんな感じ」と写真を見せていただいた。
海外ではよくある感じの内装の家の中に鎮座する、黒いピアノ。現代のピアノとは少し異なる特徴的な蓋が見え、加えて上前板が解放されて中のアクション(からくり)の構造から、完全な近代楽器ではなく少し古い楽器の設計であることも感じられた。ロゴから見るに1900年代?でもデザインはそれよりは古い…燭台立てはあるが燭台はない、9割がたは木目仕上げになっているプレイエルなのに黒い…あまり見ないタイプなので価値がよくわからない…
「とりあえず工房にピアノが着いたら見てみたいです。」調律師に伝え、ピアノが工房に着く日を待つこととした。
2020年4月
緊急事態宣言下、ついにピアノが工房に入ったとの報が調律師さんより入る。
解除されたら絶対見に行きます!と伝えしばし我慢する。
2020年6月
緊急事態宣言があけ、初のご対面…
まず鍵盤を弾いて音が出ることにびっくり、しかも「あっ、これだ」って感じの音がばっちり聞こえる。基本的にこの手の楽器のほとんどは日本に入ってくる時点では要修理状態の楽器なので、その時点でこいつはあかん楽器に出会ってしまったという文字が頭をよぎり、次の瞬間脳内で「なってしまった!」が流れ始めてさぁ大変。
興奮しすぎて写真を取り損ね写真はほぼなく…あるのは背面のやたらたくさんある支柱の写真だけ…という。製造番号の写真すら取り損ねたが、8万番台だったなというところまでは記憶していた。公開されている台帳を見る限り…19世紀後半の楽器らしい。さすがにショパンはなくなった後の物だけど、並行弦・半鉄骨・オーバーダンパーという昔ながらの設計が残る楽器。また黒いけど経年のせいか決して真っ黒というわけではなく、少し木目が見えるのもこの時いいなぁと感じた。透かし彫りのペダルもいい感じ。譜面台は下半分が破損しており、再製作するとのこと。これは運命!と思い修理後に購入したいとと考えておりますので、仮押さえを継続しておいてくださいと伝える。
すごい数の支柱… |
2020年11月
修理の状況が気になりまた工房に見に行く。
ハンマーが取り外され、再調整中の様子。丁度アサルトリリィBOUQUETにドはまりしていた時期なので…楓さんと同じ出身国だな~とか思いながら見てました。
ただいま修理中~ |
地味に一か所弦がなくなっている |
2021年
一年間ほど修理が続く、Twitterに時々写真が上がるものの、なかなか進まずじれったい日々を過ごす。10月に一度だけ工房に出向くが、アクションが修理中でなくなっていてただの外装と弦とフレームだけの状態ので写真はなし。
2022年2月
諸事情でとあるお宅にお邪魔し、またまたとんでもない楽器を触らせていただき…世界情勢も若干不安定になり始めたので、はやくプレイエルを修理してください~と調律師さんに懇願…
2022年6月
修理がほぼ完了、弦もとりあえず張られ、残作業は調律のみに…
譜面台も再製作され完全体に… |
鍵盤もばっちり張られました |
2022年8月
まさかの「暇を持て余した神々の遊び」のような動画に登場!
ストリートピアノ勢が目立ちすぎているせいで知らなかったけどけっこう有名らしい…
この頃は調律が安定するよう(?)、お友達の筒井さんや布施さんが月イチくらいで弾きにきてくれていました。配置場所の都合から新進気鋭の遠州ピアノとの並ぶ珍しい光景も…
この側面大好きですっ! |
ENSCHUとPLEYEL |
2022年10月
晴れて完全に作業が終了、修理の確認をし、正式に売約決定!
ちなみにこの頃になるとおおむね型番のあたりがついていましたが、改めて筒井さんと私双方で確認した結果、台帳記録と外見の特徴からNo.4の古いタイプのようでした。